
この記事を読んでわかること
- 直接観察できない対象を、間接的な痕跡から推定していくプロセス
- 「見えない=存在しない」ではなく「見えない場所がある」に発想を切り替える方法
突然ですが、「見えないものの位置」を当てたことはありますか?
ある日、私は自宅のベランダから、隣のベランダのどこかにあるはずのハチの巣を探していました。
姿は見えない。でも、たしかにそこにある気がする。
結論から言うと、最終的に私は巣の場所を特定した……かもしれません。それも、巣そのものを一度も見ないままです。
決め手になったのは、隣のベランダの床に落ちていた、鳥の糞みたいな白いカスでした。
今日はその推理の過程を書きます。ハチの話に見えて、実は「観測できないものをどう扱うか」という話でもあります(ということにしたいです)。
序章:女王蜂の偵察
1ヶ月ほど前の出来事です。
いつものようにパソコンに向かっていると、視界の先で何やら大きな影が蠢いていました。ベランダの窓の向こうを、やたらとおっきい蜂が行ったり来たりしているのです。
この時期にあの飛び方をするということは、たぶん女王蜂が営巣できる場所を探している。頼むから自分の生活圏内に巣を作るのはやめてほしい。そう願うばかりでした。

(写真を撮る余裕はなかったので、このときの光景を思い出しながら描きました)
しかも、目撃したのは1度ではありません。何日かにわたって、同じような光景を見ていました。
……気になります。
発端:ゲリラ豪雨の日の違和感
決定的だったのは、夏のゲリラ豪雨の日でした。
雨が激しく降るのをベランダからぼーっと眺めていたら、視界を虫が横切りました。アシナガバチです。後ろ脚をだらんと垂らして飛ぶ、あの独特のシルエット。

一度刺されたことがあるので、アシナガバチを見ると警戒モードに入ります(怖い)。
そのハチは隣のベランダに入っていき、しばらくして飛び立ち、またすぐ隣のベランダに戻ってきたのです。それを何度か繰り返している。
ここで違和感が生まれます。餌を探しているだけなら、飛び立ったらもっと遠くまで行くはずです。短い間隔で同じ場所に戻ってくるのは、そこが拠点になっている動きに見える。
しかも雨の日です。わざわざ豪雨のなかを飛んで戻ってくる場所といえば、巣くらいしか思いつきません。
隣のベランダに巣があるのでは?
これが最初の仮説でした。
第一段階:見える範囲を、片っ端から潰す
仮説が立ったので、次は検証です。
とはいえ隣の家なので、当然入れません。私にできるのは「自分のベランダから見える範囲を、目を凝らして見る」だけです。
確認したのはこのあたりでした。
- 隣のベランダの手すり周り
- 室外機
- ベランダの天井
結果。
何も見つかりませんでした。
ここが最初の壁です。見える範囲は全部見た。でも巣はない。

そんな簡単に見える位置に巣なんて作らないよなあ。
第二段階:記憶の隅にあった「跡」
しばらく考えていたときに、ふと別の記憶が浮かびました。
そういえば隣のベランダの床、鳥の糞みたいな白い跡がついてたな、と。
以前ベランダに出たときに視界に入っていたはずなのに、「鳥かな」で処理して、それきり忘れていた情報です。今思えば、鳥が止まれる場所なんてないのに鳥のふんがあるなんて、おかしいですよね。
このとき初めて、探す対象を「巣」から「巣の痕跡」に切り替えました。
そこでネットで「アシナガバチ 巣 下 ゴミ」みたいなキーワードで調べてみたところ、見事にヒットしました。アシナガバチの巣の真下には、こういうものが落ちるらしいのです。
- 黒い粒状のもの … 幼虫が蛹になる直前にまとめて出す糞。働きバチが巣の外に運び出すので、真下に溜まる
- 白いカス状のもの … 幼虫が蛹になるときに作る繭のフタ。羽化のときに削られて落ちる
つまり、黒い粒と白いカスが一箇所にまとまって落ちている=真上に巣があって、しかも世代が回っているということです。
駆除業者さんのブログに載っていた事例写真と、隣のベランダの見え方が、驚くほど一致していました。

第三段階:「見えない場所」が存在することの証明
ここで話が繋がります。
痕跡があるのは、隣のベランダのガス給湯器の、ほぼ真下でした。
でも私はさっき、見える範囲を全部確認したうえで「巣はなかった」と結論を出しています。真上に巣があるはずなのに、その真上には何も無い。矛盾しています。
……いや、待てよ、と。
給湯器の中って、どうなってるんだ?
そこで、自分の部屋のガス給湯器を下から覗いてみました。同じマンションなので、構造は同じはずです。
覗いてみると、給湯器の下部はカバーの内側が空洞になっていて、配管がむき出しで通っているのがわかりました。上は完全に覆われていて、雨も当たらない。
これはもう、アシナガバチにとって最高の物件なのでは。
そしてこの瞬間、さっきの矛盾が解消しました。
私は「見える範囲を全部見たから巣はない」と考えていましたが、正しくは「見えない場所があることに気づいていなかった」のです。

(こういう状況でした。床には粒が落ちているのに、その真上は「見えている」つもりで実は何も見えていない)
- 痕跡がある(=真上に巣がある)
- 痕跡の真上には給湯器がある
- 給湯器の内部は空洞で、外からは見えない
この3つを繋ぐと、いちばん筋が通る答えはひとつしかありません。
隣の部屋のガス給湯器の内部に、アシナガバチが営巣している可能性が高い。
歯切れが悪いですが、ここは「営巣している」と言い切れません。私は巣を見ていないからです。見ていないものを見たことにするのは、推定ではなくただの願望になってしまう。なので現時点では「可能性が高い」で止めておきます。
推定の全体像
ここまでの流れを整理すると、こうなります。
| 段階 | やったこと | 結果 |
|---|---|---|
| 観察 | 豪雨時の往復飛行を目撃 | 近くに巣がある仮説 |
| 直接検証 | 見える範囲を総当たり | 失敗(巣は見えず) |
| 発想の転換 | 探す対象を「巣」→「痕跡」へ | 白い跡を思い出す |
| 文献照合 | 痕跡のパターンを調べる | 蛹便+繭のフタと一致 |
| 構造の確認 | 自室の同型機を下から観察 | 内部が空洞と判明 |
| 結論 | 痕跡の位置+空洞構造を接続 | 給湯器内部に営巣の可能性大 |
見えないからどうしようもないな、で終わらせずに、観察した点と点をつなぎ合わせて線にする。それだけで、ここまで絞り込めてしまいました。
(もしかして、名探偵なのでは・・)
1を見て100を知る
見えるものだけで証拠が見つからないのであれば、見えないものにこそ証拠があるのではないか。
私がやったのは、そういう考え方でした。見える範囲の「1」——往復する飛び方、床に落ちた粒、給湯器という設備——を並べて、これとこれを繋ぐとどういうことが起きているのか、つまりどういうことなんだ、と考える。そこから見えない「100」のほうを言い当てにいく。
そして、そのうえでもう一度、答え合わせに戻ってくる。
この一連の流れが、私は結構おもしろいし、どうも結構好きらしいです。ハチの巣を見つけたかったというより、こっちがやりたかっただけなのかもしれません。
まとめ
今回わかったことを3行で。
- 直接見えないものでも、痕跡+構造を突き合わせれば位置は推定できる
- 行き詰まったら、探す対象を「本体」から「本体が残すもの」に切り替える
- 「見えない」は「存在しない」ではなく、「見えない場所がある」のサイン
ベランダから始まった話が、なぜか思考法の話に着地してしまいました。でも、観察して、仮説を立てて、外して、視点を変えて、また検証する。たぶん普段からずっとこんなことをしてるんだと思います。
いまは管理会社さんに連絡を入れて、返信を待っているところです。とはいえ、他人の家の設備の中の話なので、駆除まで動いてもらえない可能性のほうが高いかなとも思っています。
その場合は、隣のベランダでアシナガバチが繁殖をする・・。(かもしれない)
そうなったら、それはもう答え合わせです。巣を一度も見ないまま組み立てた仮説が、秋になって向こうから証明しにきてくれる。刺されるのは勘弁ですが、その瞬間だけは、ちょっと見てみたい気がしています。
日々の観察メモや失敗談は X(@kama_bizdev)でも発信しています。よかったら覗いてみてください。#FWTan2


