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【3Dプリント】サプリを一粒だけ出したい。3回作り直して、最後は先人に倣った話

2026-08-15column読了 約7分tan

サプリを一粒だけ出したい。手描きのスケッチを散りばめたアイキャッチ

私は毎日、マルチビタミンとクレアチンを飲んでいます。ボトルから錠剤を出すとき、毎回思います。必要な分だけパッと出てきたらいいのに。

たいした手間ではありません。でも毎日やっていると、一粒だけ出てくる容器がほしいと思うようになりました。

そして私は3Dプリンターを持っています。じゃあ作ればいい。そう思って作り始めたら、完成まで3回作り直すことになりました。今回はその記録です。

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この記事を読んでわかること

  • 「頭の中で完璧に動く機構」が、現実では普通に詰まるということ
  • 失敗するたびに、次の設計の制約が1つずつ増えていく感覚
  • 自分のアイデアと、先人のやり方に倣うこと。どちらも要るという話

全てはこの1枚のスケッチから始まった

マルチビタミンとクレアチン、それぞれ一粒だけ出てくるディスペンサーを作りたい。こんな機構にすれば作れるんじゃないか。そう考えて描いたのがこれです。

手描きのスケッチ。上から錠剤を入れて、一粒だけ出す機構のアイデアと、錠剤の実寸

まずノギスで錠剤を測っています。クレアチンが22.5×11.3×7.8mm、マルチビタミンが20.2×8.9×7.7mm。ここが全ての出発点で、この数字が決まらないと「一粒だけ通る穴」のサイズが決まりません。

tan

3Dプリンターにノギスは必須だと思います。ノギス最高。

初号機:完璧なシミュレーションは、完璧なのか?

シミュレーション

まず、ボトルの底に横向きの引き出しをつけて、そこに一粒だけ落として引っ張り出す機構を考えました。画面の中では、これは完全にキテる。うまくいく気しかしない。

初号機のシミュレーション。引き出しに一粒だけ落ちて、そのまま出てくる

結果

うまく動作しませんでした。

確かに、たまに一粒だけ出てくることはあります。でも実際には、2つ目の錠剤が詰まって全然出てこないことがたびたび発生しました。錠剤は寝てくれるとは限らなくて、縦に立ったやつが穴の上で渋滞します。

そしてもう1つ、設計と関係ないところで問題がありました。ボトル全体を3Dプリンターで作ろうとすると、容量が大きくなりすぎるのです。材料もたくさん使うし、印刷にすごいコストと時間がかかる。1回試すのに何時間もかかっていたら、試行錯誤の回数を稼げません。

改善点

  • ボトル全体を印刷しないことによる、コストの最適化
  • 押し出しの機構がどうしても詰まってしまうので、そのあたりの事前の選別

二号機:既存の容器を使うという、発想の転換

そもそも、ボトル全体を作る必要はありません。市販のボトルをカポッとはめられる形状にすれば、印刷する体積は最小限で済むし、試行錯誤をスピーディーに回せるのではないか。そう考えた結果が二号機です。

印刷した結果

たまに1個だけ、ちゃんと出てきます。

二号機の動作。錠剤が詰まって出てこない

でも、いい感じにいくと思われた設計でも、現実では2つ出てこようとした錠剤が詰まってうまく機能しませんでした。ものづくりって難しい。

引き出しを引く、という動作そのものに無理がありました。錠剤が横に並ぼうとする力を、こちらは「引く」方向で断ち切ろうとしている。この構図がある限り、噛むときは噛みます。

改善点

  • 錠剤が下に落ちる重力の力を使う。引き出しのような形状ではなく、まったく違った発想の転換が必要だ
  • その場合、既存のボトルを使うという方式が取れないので、そのあたりも完全な転換が必要

最終形態:アイデアと、先人の結合

重力に従って鉛直方向下向きに落ちてくる錠剤を、横に引き出す。この方向性はもう使えません。

じゃあ逆に、容器の中に、下からそびえ立つような杭が上下する。そんな仕組みを作れたら、杭のてっぺんに残った一粒だけが上に出てくるのではないか。そう発想を転換しました。

同時に、それってすでにやっている人がいないのかな、ということで検索もしました。

偉大なる先人

Gum Dispenser | Gum Bottle | Gum Box(Matthew Ghost 氏 / MakerWorld)

自分が実現したいことを、既に成し遂げている先人の方を発見しました。

こちらの方はガムが一粒だけ出てくる容器を開発されていましたが、まったく同じ機構がマルチビタミンにも適用できると考えた私は、この機構を参考にしてモデルの開発を行いました。

なお、参考にしたのは動作の原理で、形そのものを流用したわけではありません。錠剤の実寸が違うので、ポケットの大きさも漏斗の角度もストロークも全部違う数字になります。

成果物

こうして出来上がったのが、このモデルです。

完成したディスペンサー。円筒形で、天板に錠剤1粒ぶんの穴が開いている

断面で見ると、中身はこうなっています。

断面図。すり鉢状の漏斗の中央に、杭のような柱が立っている

ボトルの側面を持ち、上方向に持ち上げると、すり鉢状になった底面も同時に上にせり上がります。それによって、ボトルの天端に位置していた杭のような形状のものが、ボトルのちょうど底面に位置することになる。そこに一粒だけ残り、天板に開けた穴から一粒だけ抽出できるというものです。

完成品の動作。持ち上げて下ろすと、天板の穴に一粒だけ顔を出す

一往復で一粒。マルチビタミンは120錠が全部入って、実機でちゃんと動きました。

tan

ここまで来るのに、失敗作の山ができました。フィラメントはそこそこ減りました。普段やっているようなPower Platformだと、失敗しても失うのは時間だけですが、現実世界に何かを生み出すと、そのためのコストがちゃんと金額に跳ね返ってくるのが痛いところですね。

詰まったところ

最終形態も、一発では動いていません。実機で組もうとしたら部品が入らないという、いちばん間抜けな失敗をしています。そこで学んだことを3つだけ。

1. 目で見て分からない不具合は、数字で測る

「入らない」の原因が、外から何時間見ても分かりませんでした。3Dモデルは外形が正しく見えていても、内側が中身の詰まった塊になっていることがあり得ます。外から見えないので、画面をいくら回しても気づけません。

これは、2つの部品を重ねて「重なった部分の体積」を計算させると一発で分かります。本来ゼロであるべきところに45cm³ぶんの重なりが出て、そこで初めて犯人が分かりました。目視は、内側について何も保証してくれません。

2. 印刷した穴に、印刷した棒を圧入するのは博打

軸を「きつめに差し込んで固定する」設計にしていたのですが、これは入りませんでした。3Dプリンターの寸法は、部位によって縮んだり縮まなかったりします。実際、薄くて背の高い部品は直径が1mm縮んでいたのに、小さい穴はぴったり設計どおりに出ていました。

なので、固定する役目と、位置を決める役目を、1つの箇所に兼ねさせない。荷重は広い面で受けて、軸はスカスカでいい。そう分けたら素直に組めるようになりました。

3. 「たぶん15mmくらい伸ばせばいい」は、だいたい外れる

部品の高さが合わなかったとき、感覚で「15mm伸ばそう」と考えました。正解は4mmでした。しかもその4mmは、他の部品の厚みから計算で出せる数字でした。勘で決めた数字を書き込んだ時点で、その設計はもう検算できなくなります。

まとめ

今回の取り組みで感じたのは、自分の中から湧き出るアイデアと、すでに世間に広まっている手法から学んで倣うこと、そのどちらも大切だということです。

最初のスケッチがなければ何も始まりませんでしたが、最後は先人の機構に倣わなければ完成しませんでした。オリジナルであることにこだわって3回目も自力で突っ張っていたら、たぶん今も詰まった錠剤を眺めていたと思います。

そして、自分のアイデアを具現化するというのは、ただ正解を導き出すだけの作業ではありません。試行錯誤をすることであったり、自分の勘や直感が正しいのかどうかの答え合わせができる。いわばこの世界に対する、たった一人で挑む挑戦なのではないかと思います。そしてその過程にこそ、ものづくりの喜びがあるのだと、とても強く感じました。

ただの効率化オタク、生産性オタクではなく、そういった世界に対する挑戦ができる人でありたい。今回の取り組みで、また一つ何かを生み出すことができました。

自分なりの世界への答えがこれだ、というのを示せたのではないかと思っています。

楽しかったです。

ちなみにクレアチンは1日3錠摂取するんですが、できれば3錠ぴったり出てくるようにしたいなと思っているので、まだ制作にすら取り掛かっていません。

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